宗教主任 石垣 雅子

聖書の言葉

常に主を覚えてあなたの道を歩け。
そうすれば、主はあなたの道筋をまっすぐにしてくださる。

日本聖書協会 新共同訳 旧約聖書 箴言3章6節

今年本屋大賞を受賞したのは宮下奈都さんという方の書いた『羊と鋼の森』です。一人の青年がピアノの調律師として自立していく姿を描いた物語です。その青年、主人公が外村くんといいます。外村くんが先輩の調律師板鳥さんにこう尋ねる場面があります。「板鳥さんはどんな音を目指していますか」と。板鳥さんはこのように答えるのです。「外村くんは原民喜を知っていますか。」「その人がこう言っています。」「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体。」「原民喜が、こんな文体に憧れていると書いているのですが、しびれました。私の理想とする音をそのまま表してくれていると感じました。」

この本をわたしはとても良い物語だと思って読み終えたのです。特に、今お話しした場面はわたしの心に深く残りました。若い調律師で修行をはじめたばかりの外村くんが、素晴らしい調律をする板鳥さんに目指す先を尋ねる。板鳥さんははぐらかすことなく自分の目指している音を、理想とする仕事ぶりを教える。もちろん、教えたからといってすぐに到達できるわけではないでしょう。しかし、目指す先を示してもらうことで、少なくとも方向性だけは確認することができると思うのです。

わたしたちの人生も同じだろうと思います。何をしたいのかわからないという人も多いことでしょう。わたしも中高生の頃はそうでした。ただ、わたしがこれまで出会ってきたたくさんの人々が自分の目指すべき先を教えてくれたので今のわたしがここにいるのだと考えています。

箴言は語ります。《常に主を覚えてあなたの道を歩け。そうすれば、主はあなたの道筋をまっすぐにしてくださる。》わたしたちの人生は自分の人生です。が、その人生を導いてくれるものがある。それは神であり、そしてまわりにいてわたしたちを支えてくれる人たちなのだと思います。目指す先を示してくれる人々と出会いながら、神に導かれて、それぞれが一歩一歩を進んでいきたいと思います。(5月25日)