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実数といってはいけない

「コンピュータでの実数の表現」

実教出版「最新情報の科学」の「コンピュータでの実数の表現」という節があり、次のように記述されています。

実数は、コンピュータでは符号部、指数部仮数部の3つからなる浮動小数点表示で表現される。

そして、実数への傍注として

コンピュータでは、小数点を含む数をいう。

とあります。

コンピュータでは、実数は小数点を含む数!?

なによりこの「コンピュータでは」という言い方に我慢なりません。「数学的に文句をつけるな、コンピュータの世界の話なんだから」と言っているようです。ある学問の世界で一般的な用語でない言葉の使い方をすることがあります。でもその世界で十分に議論されて定義されてそうなります。ここの「小数点を含む数」などという定義は曖昧です。ましてや相手は一般の用語でなく数学で定義され、学校教育の中できちんと教えられている「実数」という言葉ですから、こんないい加減なことではいけません。

ここで教えたいことはコンピュータで数値を扱う方法は代表的なものが2つあって、「整数」と「浮動小数点数」である。ということです。

その説明のために「実数」を出す必要はありません。

小数点を含む数は、コンピュータでは符号部、指数部仮数部の3つからなる浮動小数点数で表現される。」

で十分ではないですか。カッコウをつけて「実数」と言わなければいいのです。

浮動小数点表示で表現??

ちなみに、「浮動小数点表示で表現」というのも変です。表示しなくてもコンピュータ内部(レジスタ内やメモリ内)で表現しているからです。上記では、「浮動小数点数で表現」と直してみました。

数学的考察

整数は実数に含まれる

コンピュータの数値の取り扱い方としての「整数」と「浮動小数点数」は全く異なる方法ですが、整数は実数の一部です。整数でなければ実数というものではありません。

浮動小数点数でも整数を表現できますから、「整数」-「整数」、「実数」-「浮動小数点数」という単純な対応を想起させるのは間違っています。

実数は有理数と無理数からなる

浮動小数点数では有理数のうち、ごく一部しか正確に表現できません。有理数より圧倒的にたくさんある無理数は浮動小数点数では決して正確に表現することはできません。「実数は、浮動小数点表示で表現される」という言い方は大風呂敷です。

無理数を表現できない理由は簡単です。浮動小数点数で表せるのは有限な桁数の整数と有限な桁数の小数です。これらの数は必ず整数の割り算で表現できますから有理数になります。

新課程「情報の科学」の教科書の表記の比較

出版社 記号番号 書名 教科書内の記述
東京書籍 情科301 情報の科学 実数という言葉を使っていない。浮動小数点表現という言葉を説明しているが、仮数、指数には言及しない。固定小数点表現は小数点が右端に固定された方式と書いてあり間違っている。小数点以下の数値の表現というコラムで13.4を固定小数点方式(小数部8ビット)で表現する例をあげている。
実教出版 情科302 最新情報の科学 上記
実教出版 情科303 情報の科学 整数のみで、小数にはふれない。
数研出版 情科304 高等学校情報の科学 実数という言葉を使っていない。そもそも本文では整数のみを取り扱っている。「参考」というコラムで浮動小数点数と固定小数点数を説明している。狭いスペースながら、「小数点以下の数や整数表現では表せない大きな数を表す方法」として浮動小数点数を導入しており、見識の深さが覗える。仮数部、指数部の説明もしている。ただし、説明からは2進数の小数はX×2-yとして表され、Xはあくまで整数と受け取られるかもしれない。実際にはXは1以上2未満の小数に直したもの(から1を減じたもの)なので、2進数の小数の説明はあったほうが良いかもしれない。
日本文教出版 情科305 情報の科学 2進数0.111を十進数に直す例で説明し、有限な10進の小数を2進数に直すときに循環小数になることがあると言っている。浮動小数点数,固定小数点数には触れていない。

教科書の表で302,303の記述が逆でした。現在は直っています

聖愛中学高等学校
安達順一
http://www.seiai.ed.jp/
2013-9-10